特定健診日記

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肥満の形成に腸内細菌叢が関与しているというサイエンス論文

先々週のサイエンス誌に「肥満の形成に腸内細菌叢が関与している」という興味深い論文が載ってましたので、ご紹介します(Metabolic Syndrome and Altered Gut Microbiota in Mice Lacking Toll-Like Receptor 5. Science 328:228-231, 2010)。内容はToll-Like Receptor 5という自然免疫に関与する受容体のノックアウトマウスが肥満を呈し、その詳細を追って行ったら、腸内細菌叢の変化に原因があった、というものです。


下図はToll-Like Receptor 5のノックアウトマウスが肥満を呈することを示した図です:


いくつかのデータから、このマウスの肥満の原因は過食にあることが示されています。


そして、ポイントなのが下記のデータでして、ABCでは抗生剤を用いて腸内細菌を減らした場合に、このマウスの過食や肥満のフェノタイプが消失すること、DEFGHではこのマウスの腸内細菌叢を他のマウスへ移植すると過食・肥満の形質が移植先のマウスに移されることが示されています:


すなわち、Toll-Like Receptor 5受容体がないことで、このマウスの自然免疫能がなんらか影響を受け、それによって腸内細菌叢が変化したことが過食・肥満につながった、という結論を得ています。


実際にどのような腸内細菌が過食・肥満をもたらしたのか?という部分までは詰め切れていませんが、実は、最近、他の研究グループから、「ヒトでも肥満の形成に腸内細菌叢が関与している」という論文がnatureに報告されています(A core gut microbiome in obese and lean twins. nature 457:480-484, 2009)。実際の腸内細菌叢の変化の仕方の部分では今回の論文と必ずしも同じ傾向にはなっていないようですが、今後益々、腸内細菌叢の研究は注目されて行きそうです。


ちなみに、腸内細菌叢についての重要な論文が近年次々報告されていることの背景には、次世代シークエンサーの登場があります。この装置の活用により、細菌叢の中身をまるごとシークエンサーで読み取って解析する、いわゆるmicrobiome解析が可能となったわけです。このイノベーションによって、いまだに培養同定が不可能な細菌も多く、ベールに包まれていた腸内細菌叢の全体像が少しずつ明らかにされつつあります。


なお、網羅的なmicrobiome解析ではありませんが、日本人の腸内細菌叢のBacteroidesには海洋細菌から移転したporphyranase遺伝子(海苔などの紅藻類の消化に必要な酵素)があった、という面白い論文も最近natureに報告され、話題になりました(Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota. nature 464:908-912, 2010)。詳細はこちらに詳しいです。


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