特定健診日記

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オレキシン受容体2型(OXR2)アゴニストで高脂肪食負荷時の肥満改善

1月号のCell Metabolism誌に掲載された、ごくごく基礎的な研究成果(Enhanced Orexin Receptor-2 Signaling Prevents Diet-Induced Obesity and Improves Leptin Sensitivity. Cell Metab 9:64-76, 2009)ですが、98年のオレキシンの発見(Orexins and Orexin Receptors: A Family of Hypothalamic Neuropeptides and G Protein-Coupled Receptors that Regulate Feeding Behavior. Cell 92:573-585, 1998)から約10年の歳月を経て、再び食欲や肥満のテーマに戻ってきたことやその間の事情に感銘を受けましたので、取り上げてみました。

オレキシンはその受容体(2種類)とともにテキサス大学の柳沢正史教授らが発見した神経ペプチドです。当初、食欲増進作用が報告され、orexinという名前も付けられたわけです("orexis"=ギリシャ語で「食欲」の意)が、その後、睡眠・覚醒調節とも深く関係し、ナルコレプシーという病気の原因がオレキシン欠乏であることもわかってきました。

今回の研究成果は2種類(別々の遺伝子でコードされます)あるオレキシン受容体のうち、2型(OXR2)の方を選択的に刺激すると食欲抑制ホルモンであるレプチン経路のシグナルが増強されることで肥満が改善され、しかもこれは高脂肪食負荷時にのみ生じる、という内容です。

下図のように、OXR1およびOXR2それぞれのノックアウトマウスと、orexin過剰発現マウス(下図のCAG+というところがそれです)とを交配して、きれいなデータを得ています。



さらに、OXR2受容体の選択的なアゴニストを持続的に脳室内に投与すると高脂肪食負荷による肥満が抑制される、というのが下図です。



ここにも示されていますように、食欲の抑制と、エネルギー消費の亢進との両面からオレキシンはその作用を発揮し、さらに、それがレプチン依存的であることも示されています。


ここに出てくる「OXR2受容体選択的アゴニスト」ですが、まだポリペプチドのものであるため、持続的な脳室内投与という特殊な投与方法にはなってしまっていますが、今後、代謝を受けにくく、かつまた末梢からの投与で中枢神経系に作用するような化合物が発見されれば、ヒトへの臨床応用も見えてくる可能性があります。


ちなみに、このXR2受容体選択的アゴニストは柳沢研ではなく、萬有製薬の筑波研究所(残念ながらメルク本社の都合により、この3月末で閉鎖になるそうです)での研究で見つけられたものだそうです。論文としては地味な報告ですが、しっかりとした仕事ぶりにこれまた感銘を受けましたので、データをお示ししておきます(元論文はDevelopment of an orexin-2 receptor selective agonist [Ala(11), D-Leu(15)]orexin-B. Bioorg Med Chem Lett 13:111–113, 2003.です)。

まず、下図がorexin Bなのですが、orexin Aと比べ、OXR2への結合性が高いそうです。



そこでorexin Bから出発し、その28個のアミノ酸残基を1つずつアラニンに置換(元々アラニンのところはグリシンに置換)していって、OXR1とOXR2それぞれへの親和性がどのように変化するかを調べたものが下図です。



この実験により、11番目のロイシンをアラニンに変異させるとOXR1への結合性のみが選択的に悪くなることがわかりました。同様に、今度は、天然のL体のところをD体のアミノ酸に置き換えていく実験をすると、下図のように14番目と15番目のロイシンがL体であることが大事とわかりました。



最後にこれらの変異をミックスするとどうなるかを調べたのが下図のデータです。



このようなプロセスで11番目をアラニンに、15番目をD体のロイシンに置換するとOXR2選択的なアゴニストになる、ということがわかったという研究です。

一見とても地味な研究ですが、こうしたコツコツとした研究の積み重ねの上に、新薬の開発というものも初めて可能になるわけで、動物実験のデータと合わせて長々とご紹介してみました。基礎研究というものの重要性を少しでも多くの方々に感じていただけたら幸いです。


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