特定健診日記

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ヒト成人での褐色脂肪組織(BAT)の定量と生理的機能についての論文

今週のNEJM誌に、ヒト成人での褐色脂肪組織(BAT)の定量と生理的機能についての論文が3報、掲載されました(Cold-Activated Brown Adipose Tissue in Healthy Men. NEJM 360:1500, 2009. Identification and Importance of Brown Adipose Tissue in Adult Humans. NEJM 360:1509, 2009. Functional Brown Adipose Tissue in Healthy Adults. NEJM 360:1518, 2009.)。18F-FDG(fluorodeoxyglucose)-PET(positron-emission tomography)-CT(computed tomography)で頚部〜胸部の18F-FDGの取り込みスポットを検出し、その組織学的or分子生物学的検証を行いつつ、肥満との関わりについて調べています。


18F-FDG-PET-CTは元々、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍の可視化を目的に開発され、広く臨床応用されてきている検査装置でして(悪性腫瘍はブドウ糖の取り込みが周囲の組織より多い性質を利用しています)、2002年頃より、頚部や胸部などに褐色脂肪組織での糖取り込みを偽陽性に検出してしまう、という報告(たとえばこの論文)が少なからずありました。しかし、その組織像やその他の細かい解析は今回の報告が初めてのようです。


以下に3本の論文からポイントを抜粋してお示しします。


まず、PET-CTで見たところは下の図のような具合だそうです。


NEJM 360:1509, 2009.



以下は、組織像およびUCP-1(褐色脂肪細胞に特異的なタンパク質で、ミトコンドリア膜内外間にリーク電流を流し、発熱に寄与するチャンネル分子)に対する抗体での免疫組織染色像です。


NEJM 360:1518, 2009.



次は、肥満の人は褐色脂肪組織の量が少ない、というデータです。


NEJM 360:1500, 2009.



最後に、男女差、年齢での違いを見たものです。男性より女性に多く、老年者より若年者に多い、という結果です。


NEJM 360:1509, 2009.



これまで、ヒト成人での褐色脂肪組織の働きについては、ある・ないの両論があり、コントラバーシャルな状況でしたが、今回の論文で、その論争には決着が着いたようです。今後は、褐色脂肪細胞の持つ抗肥満作用という側面から、「では、どうしたらBATを活性化できるか?」というテーマが焦点となりそうです。もっとも、このテーマ自体は十数年以上前から脈々と研究されてきたものであり、(ノル)アドレナリンのβ3受容体のアゴニストなども開発されてきましたが、今のところ、ぱっとした成果は出ていないのも事実です。今後のさらなる研究の発展が期待されます。


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