糖尿病の大血管合併症、血糖管理の強化で減らせず - VADT試験
2型糖尿病1791人(平均年齢60.4歳)を対象とし、厳格な血糖コントロール(平均HbA1c6.9%:対照群は8.4%(ただし日本のHbA1cでは6.6%と8.1%程度に相当します))によって大血管症による心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡、うっ血性心不全、血管疾患に対する外科治療、手術不能の冠疾患、虚血性壊疽に対する四肢切断)を減らせるかどうかを検討したVADT(the Veterans Affairs Diabetes Trial)試験(観察期間の中央値5.6年)の結果がこのほどNEJM誌に掲載されました(Glucose Control and Vascular Complications in Veterans with Type 2 Diabetes. N Engl J Med 360:129-139, 2009)。結果は下図のように、「有意差なし」でした。
これで2型糖尿病の大血管症に対する介入試験は、ADVANCE試験、ACCORD試験に続き、今回のVADT試験で3連敗です。ACCORD試験に至っては(おそらく低血糖のために)血糖厳格管理群で逆に死亡率が上がってしまい、途中で試験が打ち切りになってしまったことは記憶に新しいところです。これら3試験の中で今回のVADT試験が一番開始時の平均血糖値が高く、また実際に対照群とのHbA1cの差も大きくなり、差が出やすいと予想される設定でした。
<ADVANCE試験、ACCORD試験、VADT試験の比較>
平均HbA1c | ADVANCE | ACCORD | VADT |
---|---|---|---|
試験開始時 | 7.2% | 8.1% | 9.4% |
厳格管理群 | 6.4% | 6.4% | 6.9% |
対照群 | 7.5% | 7.0% | 8.4% |
観察期間中央値 | 5.0年 | 3.4年 | 5.6年 |
一方、これまでに糖尿病の大血管症に関して血糖管理の有効性が示されたDCCT/EDIC試験(ただし1型糖尿病)とUKPDS80試験においてはともに10年間の観察期間の後にその効果が出ており、大血管症に対しての効果が出るまでには10年程度の長めの期間が必要なのかもしれない、と論じられていました。
あと個人的には、今回の試験では血糖厳格管理群でrosiglitazoneがより多い用量で使われたこともひょっとして結果に影響を与えたかもしれないという気がしました。rosiglitazoneは2007年に心筋梗塞の発症リスクを高める可能性があると報告されているからです(Effect of Rosiglitazone on the Risk of Myocardial Infarction and Death from Cardiovascular Causes. N Engl J Med 356:2457, 2007)。
いずれにしても、大血管合併症は、境界型耐糖能障害の段階からリスク増加が生じることも知られていますし、なかなか厄介ですね。