特定健診日記

生活習慣病・メタボについてのホットトピックスを発信中

遺伝子多型からの糖尿病発症予測は困難 - NEJM論文2報

遺伝子多型からの糖尿病発症予測はごくわずかなメリットしかなく、基本的に困難とする報告が昨年秋にNew England Journal of Medicine誌に2報(Genotype Score in Addition to Common Risk Factors for Prediction of Type 2 Diabetes. NEJM 359:2208, 2008.とClinical Risk Factors, DNA Variants, and the Development of Type 2 Diabetes. NEJM 359:2220, 2008.)掲載されました。

ポストゲノム時代(ヒトゲノム解読後の時代)のひとつの「夢」として、個人の遺伝情報から様々な病気の発症リスクを予測し、リスクの高い人にはなんらかの対策を早めに講じることで病気を予防していくという、いわゆる「テーラーメード医療」という概念がしばらく前からもてはやされてきました。現実的にこのようなスキームが機能しやすい領域として、糖尿病やメタボが最有力候補であり、大きな期待が寄せられていました。

そのような期待を背負い、糖尿病や肥満に関しての遺伝子多型の全ゲノム解析が国内外でさかんに行われてきて、この1-2年の間に、多くの研究成果が発表されました。昨年夏には、日本では初の糖尿病の全ゲノム相関解析(GWA: genome-wide association study)の成果として、KCNQ1遺伝子の報告が2グループからなされました(Variants in KCNQ1 are associated with susceptibility to type 2 diabetes mellitus. Nature Genetics 40:1092, 2008.とSNPs in KCNQ1 are associated with susceptibility to type 2 diabetes in East Asian and European populations. Nature Genetics 40:1098, 2008.) 。

しかしながら、こうして一通りの全ゲノム解析の結果が出揃いつつある中、ひとつひとつの遺伝子多型のインパクトはかなり弱いことが明らかとなってきました。たとえば、既報の中でもっとも強いものであるTCF7L2遺伝子でも相対危険度(オッズ比)は1.3程度とごく弱いインパクトにとどまっています。

今回の2本の論文は、既報の複数の糖尿病感受性遺伝子を組み合わせてどのくらい糖尿病の発症予知ができるかを検証した研究ですが、2本とも結論としては、遺伝子多型からの糖尿病発症予測はごくわずかなメリットしかなく、基本的には困難ということになってしまいました。

このことはテーラーメード医療」の夢は少なくとも糖尿病についてはどうやら破れつつあるらしい、ということを意味しています。わが国の糖尿病がこの50年間に30倍にも増加したことは、とりも直さず、遺伝的背景よりも環境要因の方がはるかに大きいことを示しているわけでして(わずか50年間に日本人のDNAが変異したわけではないわけでして)、冷静に考えれば、遺伝的要因を心配するよりも食事や運動と言った環境要因に気をつけることの方がはるかに重要、ということはごく当然の結論とも言えます。

もっとも、糖尿病合併症についてのGWAはまだまだ途上であり、合併症対策についてのテーラーメード医療の可能性はまだ大いに残されているのではと個人的には期待しています。


人気ブログランキングへ

にほんブログ村 健康ブログへ